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第9回乳酸研究会に参加

数年ぶりに乳酸研究会に参加。

キーワードは、高強度トレーニングでミトコンドリア・グリコーゲンレベルを増やそう?

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日時 平成25年2月16日(土)13時30分より
場所 東京大学教養学部KOMCEE21 レクチャーホール
(井の頭線駒場東大前下車 正門から右奥方向の新しい建物地下)
協賛 CSMジャパン株式会社ピューラック事業本部
アークレイ株式会社
参加費 無料
内容
■トレーニングに対する骨格筋代謝機能の適応とそのメカニズム
寺田新(東京大学大学院総合文化研究科)
■乳酸は骨格筋のミトコンドリア新生のシグナルとなるのか?
星野太佑 (東京大学大学院総合文化研究科)
■正確に乳酸値を測定するための手技と新しい方法の検討
山口武広(アークレイ株式会社)
■自転車競技の現場における定量的アプローチによる 選手強化の試み
柿木克之(Blue Wych 合同会社)
■科学的測定データの競泳トレーニングへの活用~競泳トップアスリートを例に~
平井伯昌(東京スイミングセンター)
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最後2つのセッションに興味があったので、3時過ぎに到着すると、ちょうどアークレイ枠のQ&Aにはいろうかという絶妙のタイミングだった。

Ph.D をもっていてデータと理論で攻める柿木先生とデータ収集が面倒な水泳に感性で指導する平井先生の対比が面白かった。
■柿木克之(Blue Wych 合同会社):自転車競技の現場における定量的アプローチによる 選手強化の試み

国内では、パワートレーニングの第一人者の柿木先生の発表。
プロ、ナショナルチーム(トラック)、学生(東大)のコーチをしている。

内容は
・ロード選手
・トラック選手
への強化トレーニングの取り組み
★定量化ツール
80年台からパワー計測が可能になる。
パワー = ケイデンス x トルク
HR モニターより、トルクをかけた時の応答、計測間隔などでメリットがある

★定量化すべきデータ
– レースでの目標値
– 選手の能力
– トレーニングの質・量

各データをひたすら収集し、関連因子を解析する

★ロード

●選手の能力の定量化

持久力の指標として LT 値を計測

5種類のメニューをこなす。
1. medium 90%-100% of LT
2. strong 100% – 1**%
3. strengh
4. pace
5. sprint

レースは基本運動単位の集合体

距離ではなく仕事量で評価
各強度での時間が大事。

●従来のトレーニング方法との違い

中~高強度の比率を上げる ⇔ 長い距離の乗り込みを積み上げる
オフシーズンも高強度でトレ ⇔ 冬は LSD で乗り込む

短い期間で LT パワーが 10-20%程度上がった

●レース戦歴

タイムトライアル中心に活躍
プロを2名輩出(西園選手 、安井選手。ともに東大院を休学中)

●練習量の評価
週ごとの仕事量がベース
各強度でのトレーニング量と結果を評価しながら、強度と量を調整する
中、高強度の閾値を用意しておき、強度の高いトレーニングを一定時間以上やらないように制御

●チームタイムトライアル(TTT)の戦略
東大は一般入試で入学しているので、力がバラバラ。
風よけ効果で、トレインの後ろほど負荷が減る
各選手の出力と風よけ考慮して、一定のペースになるようローテーション間隔をはじき出す。(←一種の最適化問題)

日本代表の団体追い抜き(トラック)にも同じアイデアを適用した。

★トラック

2010/03 ~日本代表を強化支援
トラックなので、ロードに比べて競技時間は極端に短い。
LT は普段見ているロードのアマチュア選手と変わらない。(本人談:もっと高いかと思った)

ロードのトラックの競技特性の違いから、ロードとは別の指標が必要。
加速力が重要を判断し、トラックの TT の中でも一番短い 200m に着目
http://en.wikipedia.org/wiki/Track_time_trial#Flying_200_m_time_trial

●収集データ

ケイデンス x トルクのデータから
– トップスピードに乗るまでの加速区間
– トップスピードを維持する区間
の2つを向上させることを目指す。

トラック競技が強い、イギリス、オーストラリアの類似データを見ると、体重を考慮しても15%はパフォーマンスが違う。

●トレーニング

加速に必要なトルクのアップ→筋力の向上
スピードの維持→高ケイデンス帯での高負荷トレ(スピードが乗るまでにバテてしまわないように、工夫が必要)

●効果
渡邉一成選手が一番熱心に取り組んでくれた。
日本新を数回更新。
競輪でもともと成功している選手なので、いままでと違うトレーニングを受け入れてもらうのは大変。

★Q&A
レースはフィジカル7割、技術3割。
東大の選手が活躍しているのは、技術要素が低いTT。ロードは弱い。

LT を測定するプロトコルは競技に合わせる必要がある。
トラック選手の場合、3分間でも長い。ラボの測定は向いていないのではないか。
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■平井伯昌(東京スイミングセンター):科学的測定データの競泳トレーニングへの活用~競泳トップアスリートを例に~
トレーニング中の HR と乳酸値の測定結果がメイン。

★データログ
自転車とことなり、水泳では運動中にデータ集取するのが難しい。
インターバルの短いレス途中に HR を測定したり、セット後に乳酸値を測定。
また、レースの場合は、撮影したビデオを元に、間隔ごとの秒速、ストローク数、ストロークあたりの距離なども収集可能。

★トレーニング概論

高強度で良いフォームで泳ぐ

忍耐力と克己心(メニューをこなせる人でないと、そもそも上達しない)

フォームが崩れることを極端に嫌っているようで、ゆっくりとしたベースでバタフライを泳いだり(→レースと同じピッチで泳ぐべき)、水泳にむすびつかないレジスタンストレーニングを頑張ったり、合宿で大量に距離だけこなしてへばってかえる(→いい泳ぎの状態で合宿を終えるべき)などがアンチパターンとして紹介されていた。

★HRと乳酸値測定の実際

昔はいろんな層に対して熱心に測定していたが、最新はそれほどでもない。
目標タイムをいかに達成したかではなく、高い乳酸値に満足する選手もいる。
海外では、乳酸値を測定するのは最近はめっきり見かけなくなった。

USA ナショナルチームのサイトには、2009年を持って乳酸値をクールダウンの指標とするのは無意味だから辞めた、みたいな声明がある。
http://www.usaswimming.org/ViewMiscArticle.aspx?TabId=1781&Alias=Rainbow&Lang=en&mid=7899&ItemId=3618

As of fall 2009, the USA Swimming National Team Performance Support Group will no longer be providing lactate clearance tests at competitions. Our past experiences, valuable input from research experts, and unfavorable testing conditions, has made it clear that the lactate clearance testing program is no longer necessary to guide cool-downs and very little benefit could be gained from continuing to provide the tests.

★選手による違い

荻野選手のように中距離が専門なのに、高い心拍数・乳酸値のまま短いインターバルでガンガン泳げる選手もいる。

フェルプスは 2003 年のレース後の値で 6 程度だった。

La 値をもとに、選手に何がおこっているか想像することが大事。
高い La 値が出たからといって喜んではいけない。

★トレーニングの変化
ボリューム主体のトレから高強度を高頻度に行うトレにうつりつつある。
高地トレを最近はやっていない

より高い泳速普段から泳がせないと、世界と戦えない。

荻野選手は平井コーチに来る前まで、一年中高強度中心のメニューをこなしてきた。

USC/Novaquatics の Salo コーチも昔から年中レースペースで泳がせるメニューが中心。

Salo コーチの指導法は Human Kinetics の “Complete Conditioning for Swimming (2008/6/30)” を読むと確認できる。
ロングディスタンスの選手を “long sprinter” と定義する指導方法は、初めて読んだときは新鮮だった。
★ピークの持って行きかた

明確なピリオダイゼーションはやらない
年に2回ピークを持ってくるとして、20-30週間もかけてゆっくりとピークに持っていく必要なんてあるの?

もっと短いスパンで何回もピークをもっていく。
スパン内の各イテレーションでは、メニューに幅を持たせて、いろいろな刺激を与えるのが重要。

会場には松田丈志選手もいた。
■Q&A

高強度x短いインターバルでつけた持久力と低負荷 x 高ボリューム でつけた持久力に違いはあるの?

筋の動員が違う。
両方が必要。
高負荷トレがそのままマラソンに生きるかは実験していないが、難しいのでは?

LSD のやりすぎは、解糖系能力が落ちる。

LSD だけでは LT がのびなくて、強度を上げると、LT ののびが加速する事がよくある。(柿木)
ただし、負荷をかけても伸びにくい人もいる。個人差が大きい。

同じメニューばかりやると、同じシグナルばかりで刺激が足りなくなる。
バリエーションのあるメニューをやることで、トレーニングもより効果的になる。

高ボリュームのトレーニングを選手に納得してもらいながら取り組んでもらうにはどうすれば良い?

最近は、ボリューム中心のメニューの有用性を示す論文が弱い
東スイも数十年前は5歳程度の子供に 400IM とか泳がせていたが、今はあまり距離は泳がせていない。(泳ぎが汚い)
長い距離のメニューに拒否反応を示す選手も多い。
ピアソルは高校生まで、1日1回たった 4000m 程度の練習だけで世界トップになった。

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柿木克之先生は短い時間内に早口で大量の内容を詰め込みすぎだと思う。中身が濃いので、倍の時間は欲しかった。

以上。

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スマイルスポーツ:筋力トレーニング・レベルアップセミナー参加

今年3月のトライアスロンレースにおいて、バイクパートで外国人との歴然としたパワー差を痛感したため、スマイルスポーツ主催の筋力トレーニング・レベルアップセミナーに参加。

講師の有賀誠司先生はボディビルの競技者として大きな成果を上げたあと、現在はストレングス&コンディショニングの指導者として活躍されている。

趣旨

「もっと効率よく筋肉を発達させたい」「いまひとつ筋力が向上しない」そんな悩みを解決します!
筋力トレーニングのスペシャリストが、トレーニングのコツや問題解決法を講義と実技の両面でアドバイス!
トレーニング効果の頭打ちやマンネリ化を打破したい方にとって、特にオススメのセミナーです。

講師:有賀誠司(東海大学スポーツ医科学研究所 教授、日本トレーニング指導者協会 理事)

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セミナーメモ

  • 筋量
  • 最大筋力
  • パワー

の3つを向上させるために、理論と実技をおりまぜて説明。

参加者は20歳前後の若いひとから60歳オーバーと思しき年配者まで様々。
参加者の年齢構成と申込時の質問を受けてか、スポーツ選手向け視点だけでなく、メタボ、加齢、ロコモのような中年以降の年配者向け視点にも力点が置かれていた。

筋量

いかにして成長ホルモンの分泌させ、エキセントリック局面で筋損傷&超回復させるか?
LST法(スロートレ)と加圧法では成長ホルモンの分泌量で有意差無し

最大筋力
速筋線維がたくさんある方が筋力は増大しやすい
速筋の割合は先天的に決定(ACTN3, ACE, UCP2 などの遺伝子)
パワー型スポーツでは上位者に遅筋系(XX)選手はいないが、持久型スポーツでは速筋(RR)、中間(RX)、遅筋(XX)の3タイプがいる。

口内粘膜から遺伝子は簡単に検査できる。

パワー
パワー = 仕事 / 時間 = 力 x 距離 / 時間 = 力 x 速度
スクワットジャンプ、パワー・クリーンなどが有効
バネ能力が高いとランニングにおいて接地時間が短いことにもつながり、長距離ランナーにも効果がある

Q&A
一般的トレーニングはあくまでも土台。競技につなげるには競技動作と関連のある専門的トレーニングを橋渡し的に行う必要がある。
筋量増大=>最大筋力向上=>最大パワー向上=>スポーツ動作のパワー向上
40代の間に腹筋、大腿四頭筋が激減する
有酸素=>筋力トレの順で運動すると、成長ホルモンの分泌が抑制されてしまう。順序を逆にすると、脂質代謝が増進。
脂肪を増やさずに筋量を増やすのは難しい。脂肪、筋量を増やしたあとで体脂肪を減らすのなら現実的。
全身持久力と筋肉量増大のトレーニングを同時進行で実施すると、相殺しあい効果が出ない。期ごとにテーマを分けて狙いを明確にすること。
子供の体力はファミコンが発売された1985年をピークに低下

その他
使った道具
フリーウェイト系器具は一般参加者は使わない。
水の入ったペットボトル(ダンベル替わり)とチューブのみ。

価格について
基本的に開催母体が東京都ということもあり、10時~15時の4時間セミナーでありながら、料金は2千円と激安。

有賀先生以外にスタッフが2名参加。
実演や実技でヘルプしてくれる。

東体の工事
東京体育館は更新工事のため、プールは4/1から、トレーニングルームは7/1 から来年3月いっぱいまで休館になることを知る。
http://www.tef.or.jp/tmg/news_detail.jsp?id=3109

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第1回JTUトライアスロン研究会参加

社団法人日本トライアスロン連合(JTU)で募集されていた「第1回JTUトライアスロン研究会」(“The 1st JTU Conference of Science in Triathlon”)に参加
主催者や発表者とは接点・利害関係がほぼ無いので、好き勝手に書きなぐったのが以下。
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http://www.jtu.or.jp/news/2011/111207-1.html
「第1回JTUトライアスロン研究会」開催要項

主 催:(社)日本トライアスロン連合(JTU)
専修大学社会体育研究所
企画運営:JTU情報戦略・医科学委員会

会 期:2011年12月17日(土)
13:00~18:00(当日のスケジュールPDF)

場 所:専修大学サテライトキャンパス
〒214-0014神奈川県川崎市多摩区登戸2130-2
(アトラスタワー向ケ丘遊園2階)
小田急向ケ丘遊園駅北口徒歩1分

対象者:大学生以上(18歳以上)のトライアスロン愛好者、トライアスロンに興味のある方、関わっている方など。

参加費:500円(通信、資料作成、研究会記録などの資料費)
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■開催意図

2011年3月24-26日に「第1回トライアスロン科学会議」がスペインで開催された。
日本ではトライアスロンの研究をしている人は皆無に等しいが、同じような催しを日本でも、ということで今回の開催となった模様。
2週間と短い準備期間のなか、主催者の人徳か、多方面の発表者を集めたうえ、参加費はわずか500円と大変リーズナブル。
僕はJTUのサイトで小さく告知されたタイミングで申し込んだので、受付番号は6番だった。その後、サイトトップで大きく告知され、最終的には25人程度集まった模様。

■アジェンダ

  1. 「トライアスロン研究の最前線 ―ウェットスーツの研究を中心に―
    JTU情報戦略・医科学委員、専修大学講師 富川理充
  2. 「トライアスロン・エリート選手のスイムパートにおけるレース展開―GPSによる軌跡分析から―」
    JTU情報戦略・医科学委員、文化学園大学助教 森谷直樹
  3. トライアスロンレースでのランニングパフォーマンスと生理的指標との関係
    国立スポート科学センター 本間俊行
  4. 「ランニングパフォーマンス向上のための自転車トレーニング―トレーニング効率の向上を目指して―
    筑波大学スポーツR&Dコア研究員 吉岡利貢
  5. 「運動に及ぼすBCAAサプリメントの影響」
    筑波大学スポーツR&Dコア研究員 石倉恵介

■「トライアスロン研究の最前線 ―ウェットスーツの研究を中心に―

JTU情報戦略・医科学委員、専修大学講師 富川理充

元競泳選手
トライアスロンに関する論文の数を pubmed と cinii で調査すると、緩やかに増えている
検索キーワードは triathlon と triathlon x {swim, cycling, run} を用いる(bike ではなくcyclingな理由は不明)

浮力は 体表面積と比例する

推進力と抵抗で均衡を保って進む

はやく泳ぐには?

  • 推進力を増やす
  • 抵抗を減らす

泳速 = ストローク数 x ストローク長
400M タイムトライアル は VO2Max と強い相関がある

・VO2Max:持久力の指標
・POMax:スプリントの指標(競泳の50M)

発表者は競泳出身でプールでは速いが、オープンウォーターでは遅い

★ウェットスーツを生かした泳ぎ方

手をぶん回して、ストロークピッチを上げる
Janet Evans のような泳ぎ方?

技術力のあるスイマーはウェットスーツのメリットをあまり享受できない
過去の研究では、フルスーツとロングジョンのパフォーマンスの違いは有意差はでていない
過去の研究では、水温やウェットスーツの記事の厚さなどがまちまち。
体脂肪の少ない選手ほど、ウェットスーツの効果は出やすい

★疑問

  • 海水で浮力が若干ある場合、どう影響するのか?
  • Konaなどで利用可能なスイムスーツの効果は?
  • 過去の研究はそれなりにはやい人を被験者に選んでいる。
    400Mが6分~8分のレベルの人だと、ウェットスーツの有無でどのようにタイムが違ってくるのか?
  • トライアスロン(OWS)専門の人はプルが強く、競泳の人(特にba)はキックが強い印象がある。
    過去の研究では、泳ぎの特性を加味しているのか?

★海外/日本のウェットスーツの違い
海外:吊るし主体
日本:テイラーメイド
海外ではテクニックをパワーでカバーする
フィット感が今ひとつでも、海外の選手は気にしない

★発表者の関連研究

かなりニッチ

J Sci Med Sport. 2008 Jul;11(4):417-23. Epub 2007 Mar 26.
Factors related to the advantageous effects of wearing a wetsuit during swimming at different submaximal velocity in triathletes.
Tomikawa M, Shimoyama Y, Nomura T.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17387042

J Sci Med Sport. 2009 Mar;12(2):317-22. Epub 2007 Dec 20.
Relationships between swim performance, maximal oxygen uptake and peak power output when wearing a wetsuit.
Tomikawa M, Nomura T.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18083064

■「トライアスロン・エリート選手のスイムパートにおけるレース展開―GPSによる軌跡分析から―」
JTU情報戦略・医科学委員、文化学園大学助教 森谷直樹

館山OWSやトライアスロンの選手権大会(天草、蒲郡、お台場)で選手にGPS端末をつけてもらい、スイムパートのログを取り、カシミール3Dで可視化。
ログ取得頻度は 1Hz または 5Hz から選択できるが、可視化ソフトウェアの性能要件により、1Hz(1秒に1回)を採用

GPSロガーはTransystems 社の TripMate 852(実売1万円程度)
http://www.transystem.jp/product/tripmate852.html


※研究費の都合から Garmin は使えなかったらしい。

Sunto は海外のトライアスロンのレースでリアルタイムで心拍数などと共に GPS ログを表示させていた。
→SRM はアイアンマン Kona やツール・ド・フランスでライブアップデートをしているが、参加者の多くはご存じない(興味ない?)ようだった。
→日本では電波法に引っかかるのでサービス提供できない

取得したログからは、アウトスタートがよいライン取り

特定の選手だけでなく、参加者全員のログを取らないと、集団のなかでどこを泳いでいるのかわからない(参加者の指摘)

Q:GPS 端末をつけて泳ぐのはOKか?
FINA (国際水泳連盟)は OK
ITU(国際トライアスロン連合) はルールを読む限りは問題なさそう。
オーストラリアで行われたトライアスロンの世界選手権では、車載カメラもOKだった。(夏に話題になった↓のことか?)

GPSログはキレイに取れるわけではなく補正が必要
New York Times でもGPSの精度問題が最近取り上げられていた。その記事の不正確さに対する DC Rainmaker さんのツッコミも必読。

僕は今年の湘南OWS10kmではGPSをつけて泳いだので、今回の発表では一番身近に感じた。

■トライアスロンレースでのランニングパフォーマンスと生理的指標との関係
国立スポート科学センター(JISS) 本間俊行

スピーカーはトライアスロンのコーチ向け研修に携わっている。
速さ = ピッチ x ストライド

レースで選手のストライド、ピット、ランパートのタイムを調査

全体の傾向としては

  • ピッチとランのタイムは相関なし
  • 身長とストライドの長さは相関なし(発表スライドにはなかったが、過去の調査によると)
    背が低くても、ストライドが長い人は長い。(170cmと150cmではストライドで大きな違いがあるように思えるが、、、)
  • ストライドの長さとタイムは強い相関
    同じ選手でも、成績のよかったレースでは、ストライド走法ぎみに走っている

スライドが長い選手は足の接地時間が短い。

なお、ピッチのプロットを見るかぎり、エリート選手は180-210/minute の範囲におさまっていた。

また、トラックを利用した乳酸カーブテストのタイムトライアル時の心拍数を元に、オリンピックショートレース中の最適な平均心拍数を割り出す事例(4mmolの負荷)も紹介されていた。

★疑問

  • スライドを見るかぎり、トラックでの測定は春、秋、冬と走りやすい時期に行われており、8月など真夏に測定したものは見当たらなかった。
    夏は心拍数が高く出るはずだが、その場合、どのように補正するのか?
  • ミドル、ロングの場合の適切な心拍数は?
  • 自分の印象では、心拍数は環境・体調など広い意味でのコンディションで大きく変動してしまう。
    自転車のワットのように、もっと使いやすい指標はないか?

■「ランニングパフォーマンス向上のための自転車トレーニング―トレーニング効率の向上を目指して―
筑波大学スポーツR&Dコア研究員 吉岡利貢

陸上がバックグラウンドの若手研究者。

テーマは、トライアスロンというより、バイクのトレーニングで走力を向上しましょう、というクロストレーニングの研究紹介。
ランは障害のリスクが高いため、ランの高負荷トレをバイクで置き換えましょう、というのが今回の発表のテーマ(と自分は理解)

bike/run の筋活動の違い
・Run → 伸張性と短縮性収縮運動の両方を利用
・Bike → 短縮性収縮運動のみ利用

短時間に高負荷を与えるトレーニング(プライオメトリクスなども含め explosive power を発揮するもの。sprint interval training)が無酸素能力だけでなく有酸素能力も向上させるという研究が最近流行っている
http://scholar.google.co.jp/scholar?q=sprint+interval+training

ランニング能力は
・VO2Max
・LT
・ランニングエコノミー
で多くが説明がつく。

10kmレースで日本人と世界トップ選手で VO2Maxは同じ位。
でも 10km 走らせると、2-3分異なる。→ エコノミーが違う

大学入学後、全然伸びていなかったランナーのタイムが伸びた
40KM/Week のランニングと 20km/Week + クロストレーニングで同等の成績をおさめられた(発表者)
トライアスロンは新しいスポーツだからか、トライアスリートは新しいことに興味を示してくれて、実験に協力してくれる
クロストレーニングでランを減らす弊害として、ランニングエコノミーが悪化するかもしれない

★自分メモ
僕は Chris Carmichael の約2年前のどこかの Web 記事をきっかけにエルゴメーターを使った超高負荷・短時間のバイクトレーニングでバイクの能力が向上したという研究を知った(クロストレーニングではない)。Chris Carmichael が執筆した The Time-Crunched Cyclist(2009)/Triathlete(2010) もこの研究も参考にして書かれている。ただ、自分がナナメ読みした3-5本程度の研究(High Intensity Training 系)はどれもワット、糖代謝、筋組成の変化をpre/postで比較するものであり、ランと絡めたものはなかった。その意味で、今日の発表は新鮮で一番楽しめた。

なお、”The Time-Crunched Triathlete” では今日の発表にあったような「バイクトレでランの能力を向上させるぜ!」のような記述はなかったように記憶している。逆に「特異性の原理」を重要視し、ランがはやくなりたければランをしろ、バイクでも同様というスタンス。さらに、ランだけをやれば良いマラソンと、スイム・バイクの後に走らなければいけないトライアスロンのランは全く別物という前提のもと、ラントレは単発ではなくブリックラン(バイクのあとランをする)するようにプログラムがくまれていた(気がする)。

スピーカーは自身の実例を元に、クロストレーニング主体のマラソン本を書いている。


毎日長い距離を走らなくてもマラソンは速くなる! 月間たった80㎞で2時間46分! 超効率的トレーニング法 (ソフトバンク新書)

このタイトルは編集者がつけたのだろうけど、タイトルを見ただけでは、
・遅い人(たとえば4時間の人)が2時間45分で走れるようになったのか
・もともと2時間45分で走れた人がランの練習量を減らしても同じペースで走れるのか
区別がつかないな。

■「運動に及ぼすBCAAサプリメントの影響」
筑波大学スポーツR&Dコア研究員 石倉恵介
20年来のアイアンマン

アミノ酸(BCAA)の効果について
つくば在住の研究員らしく、先日行われたつくばマラソンでの実験結果(ダブルブラインド)を紹介。

  • 運動能力を高める効果はない
  • レジスタンストレーニングの筋損傷を抑制(マラソンの場合は大腿筋群)
  • 遅発性筋肉痛(DOMS)を抑制(筋損傷マーカー CK, LDH を利用)
  • 運動後のタンパク質代謝を向上

※実験で利用されたBCAAは企業から提供をうけたもの(企業名は忘れた)

現役の実業団トライアスリートに摂取サプリについて質問がいった
・できるだけ食事で栄養をとるようにしている
・体調が良くないときは、サプリの効果を感じる

Web 上にあるサプリ会社の BCAA 解説記事は以下

参加者の間では青いパッケージのBCAA が人気なようだった。

■17:10 懇談会 日本のトライアスロン研究について

参加者の自己紹介とか聞き足りなかったことの質問とか。
次回は選手もなにか発表してほしいね、とか。
参加者は、研究者、学生、実業団選手(トヨタ車体) 、JTU系組織の中の人、ショップ・コーチ、スポーツ外科医、一般愛好家(僕とか)と良い意味で雑多だった。

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■全体の印象

  • 1回目を考慮してなのか、競争が熾烈でないからなのか、身近で親しみの持てるテーマが多かった。
  • なんでも線形回帰で説明したがる発表者が多かった。
  • 突っ込んだ質問をぶつけてくる人はいなかった。
  • ノートPCを広げながら話を聞いている人は皆無に近かった(いつも僕が参加するようなIT技術系イベントとはノリが違う)
  • 自分はアームチェアアスリートだと再認識
  • 日程が合えば、第2回も参加予定

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