数年ぶりに乳酸研究会に参加。
キーワードは、高強度トレーニングでミトコンドリア・グリコーゲンレベルを増やそう?
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日時 平成25年2月16日(土)13時30分より
場所 東京大学教養学部KOMCEE21 レクチャーホール
(井の頭線駒場東大前下車 正門から右奥方向の新しい建物地下)
協賛 CSMジャパン株式会社ピューラック事業本部
アークレイ株式会社
参加費 無料
内容
■トレーニングに対する骨格筋代謝機能の適応とそのメカニズム
寺田新(東京大学大学院総合文化研究科)
■乳酸は骨格筋のミトコンドリア新生のシグナルとなるのか?
星野太佑 (東京大学大学院総合文化研究科)
■正確に乳酸値を測定するための手技と新しい方法の検討
山口武広(アークレイ株式会社)
■自転車競技の現場における定量的アプローチによる 選手強化の試み
柿木克之(Blue Wych 合同会社)
■科学的測定データの競泳トレーニングへの活用~競泳トップアスリートを例に~
平井伯昌(東京スイミングセンター)
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最後2つのセッションに興味があったので、3時過ぎに到着すると、ちょうどアークレイ枠のQ&Aにはいろうかという絶妙のタイミングだった。
Ph.D をもっていてデータと理論で攻める柿木先生とデータ収集が面倒な水泳に感性で指導する平井先生の対比が面白かった。
■柿木克之(Blue Wych 合同会社):自転車競技の現場における定量的アプローチによる 選手強化の試み
国内では、パワートレーニングの第一人者の柿木先生の発表。
プロ、ナショナルチーム(トラック)、学生(東大)のコーチをしている。
内容は
・ロード選手
・トラック選手
への強化トレーニングの取り組み
★定量化ツール
80年台からパワー計測が可能になる。
パワー = ケイデンス x トルク
HR モニターより、トルクをかけた時の応答、計測間隔などでメリットがある
★定量化すべきデータ
– レースでの目標値
– 選手の能力
– トレーニングの質・量
各データをひたすら収集し、関連因子を解析する
★ロード
●選手の能力の定量化
持久力の指標として LT 値を計測
5種類のメニューをこなす。
1. medium 90%-100% of LT
2. strong 100% – 1**%
3. strengh
4. pace
5. sprint
レースは基本運動単位の集合体
距離ではなく仕事量で評価
各強度での時間が大事。
●従来のトレーニング方法との違い
中~高強度の比率を上げる ⇔ 長い距離の乗り込みを積み上げる
オフシーズンも高強度でトレ ⇔ 冬は LSD で乗り込む
短い期間で LT パワーが 10-20%程度上がった
●レース戦歴
タイムトライアル中心に活躍
プロを2名輩出(西園選手 、安井選手。ともに東大院を休学中)
●練習量の評価
週ごとの仕事量がベース
各強度でのトレーニング量と結果を評価しながら、強度と量を調整する
中、高強度の閾値を用意しておき、強度の高いトレーニングを一定時間以上やらないように制御
●チームタイムトライアル(TTT)の戦略
東大は一般入試で入学しているので、力がバラバラ。
風よけ効果で、トレインの後ろほど負荷が減る
各選手の出力と風よけ考慮して、一定のペースになるようローテーション間隔をはじき出す。(←一種の最適化問題)
日本代表の団体追い抜き(トラック)にも同じアイデアを適用した。
★トラック
2010/03 ~日本代表を強化支援
トラックなので、ロードに比べて競技時間は極端に短い。
LT は普段見ているロードのアマチュア選手と変わらない。(本人談:もっと高いかと思った)
ロードのトラックの競技特性の違いから、ロードとは別の指標が必要。
加速力が重要を判断し、トラックの TT の中でも一番短い 200m に着目
http://en.wikipedia.org/wiki/Track_time_trial#Flying_200_m_time_trial
●収集データ
ケイデンス x トルクのデータから
– トップスピードに乗るまでの加速区間
– トップスピードを維持する区間
の2つを向上させることを目指す。
トラック競技が強い、イギリス、オーストラリアの類似データを見ると、体重を考慮しても15%はパフォーマンスが違う。
●トレーニング
加速に必要なトルクのアップ→筋力の向上
スピードの維持→高ケイデンス帯での高負荷トレ(スピードが乗るまでにバテてしまわないように、工夫が必要)
●効果
渡邉一成選手が一番熱心に取り組んでくれた。
日本新を数回更新。
競輪でもともと成功している選手なので、いままでと違うトレーニングを受け入れてもらうのは大変。
★Q&A
レースはフィジカル7割、技術3割。
東大の選手が活躍しているのは、技術要素が低いTT。ロードは弱い。
LT を測定するプロトコルは競技に合わせる必要がある。
トラック選手の場合、3分間でも長い。ラボの測定は向いていないのではないか。
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■平井伯昌(東京スイミングセンター):科学的測定データの競泳トレーニングへの活用~競泳トップアスリートを例に~
トレーニング中の HR と乳酸値の測定結果がメイン。
★データログ
自転車とことなり、水泳では運動中にデータ集取するのが難しい。
インターバルの短いレス途中に HR を測定したり、セット後に乳酸値を測定。
また、レースの場合は、撮影したビデオを元に、間隔ごとの秒速、ストローク数、ストロークあたりの距離なども収集可能。
★トレーニング概論
高強度で良いフォームで泳ぐ
忍耐力と克己心(メニューをこなせる人でないと、そもそも上達しない)
フォームが崩れることを極端に嫌っているようで、ゆっくりとしたベースでバタフライを泳いだり(→レースと同じピッチで泳ぐべき)、水泳にむすびつかないレジスタンストレーニングを頑張ったり、合宿で大量に距離だけこなしてへばってかえる(→いい泳ぎの状態で合宿を終えるべき)などがアンチパターンとして紹介されていた。
★HRと乳酸値測定の実際
昔はいろんな層に対して熱心に測定していたが、最新はそれほどでもない。
目標タイムをいかに達成したかではなく、高い乳酸値に満足する選手もいる。
海外では、乳酸値を測定するのは最近はめっきり見かけなくなった。
USA ナショナルチームのサイトには、2009年を持って乳酸値をクールダウンの指標とするのは無意味だから辞めた、みたいな声明がある。
http://www.usaswimming.org/ViewMiscArticle.aspx?TabId=1781&Alias=Rainbow&Lang=en&mid=7899&ItemId=3618
As of fall 2009, the USA Swimming National Team Performance Support Group will no longer be providing lactate clearance tests at competitions. Our past experiences, valuable input from research experts, and unfavorable testing conditions, has made it clear that the lactate clearance testing program is no longer necessary to guide cool-downs and very little benefit could be gained from continuing to provide the tests.
★選手による違い
荻野選手のように中距離が専門なのに、高い心拍数・乳酸値のまま短いインターバルでガンガン泳げる選手もいる。
フェルプスは 2003 年のレース後の値で 6 程度だった。
La 値をもとに、選手に何がおこっているか想像することが大事。
高い La 値が出たからといって喜んではいけない。
★トレーニングの変化
ボリューム主体のトレから高強度を高頻度に行うトレにうつりつつある。
高地トレを最近はやっていない
より高い泳速普段から泳がせないと、世界と戦えない。
荻野選手は平井コーチに来る前まで、一年中高強度中心のメニューをこなしてきた。
USC/Novaquatics の Salo コーチも昔から年中レースペースで泳がせるメニューが中心。
Salo コーチの指導法は Human Kinetics の “Complete Conditioning for Swimming (2008/6/30)” を読むと確認できる。
ロングディスタンスの選手を “long sprinter” と定義する指導方法は、初めて読んだときは新鮮だった。
★ピークの持って行きかた
明確なピリオダイゼーションはやらない
年に2回ピークを持ってくるとして、20-30週間もかけてゆっくりとピークに持っていく必要なんてあるの?
もっと短いスパンで何回もピークをもっていく。
スパン内の各イテレーションでは、メニューに幅を持たせて、いろいろな刺激を与えるのが重要。
会場には松田丈志選手もいた。
■Q&A
高強度x短いインターバルでつけた持久力と低負荷 x 高ボリューム でつけた持久力に違いはあるの?
筋の動員が違う。
両方が必要。
高負荷トレがそのままマラソンに生きるかは実験していないが、難しいのでは?
LSD のやりすぎは、解糖系能力が落ちる。
LSD だけでは LT がのびなくて、強度を上げると、LT ののびが加速する事がよくある。(柿木)
ただし、負荷をかけても伸びにくい人もいる。個人差が大きい。
同じメニューばかりやると、同じシグナルばかりで刺激が足りなくなる。
バリエーションのあるメニューをやることで、トレーニングもより効果的になる。
高ボリュームのトレーニングを選手に納得してもらいながら取り組んでもらうにはどうすれば良い?
最近は、ボリューム中心のメニューの有用性を示す論文が弱い
東スイも数十年前は5歳程度の子供に 400IM とか泳がせていたが、今はあまり距離は泳がせていない。(泳ぎが汚い)
長い距離のメニューに拒否反応を示す選手も多い。
ピアソルは高校生まで、1日1回たった 4000m 程度の練習だけで世界トップになった。
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柿木克之先生は短い時間内に早口で大量の内容を詰め込みすぎだと思う。中身が濃いので、倍の時間は欲しかった。
以上。